効率化の先へ。専門チームで探るAIの”余白”と、AI×クリエイティブの最前線

AIツールを導入したものの、業務の効率化や代替に留まり、新たな価値創造やイノベーションに繋がらない——そんな悩みを抱えていませんか?

日本/NY/ミラノを拠点に活動するクリエイティブカンパニー・株式会社コネル。デザインとテクノロジーを融合させ、文化と発明の交差点となるプロジェクトをつくる同社は、効率化や代替にとどまらないAIの可能性を模索しています。「20年後の自分から手紙が届く」システム「未来からの手紙」は大阪・関西万博で連日満員を記録し、自社サービス「idea Landscape」では特許とAIを掛け合わせて新規事業のアイデアを大量に生成・分析し、企業の次のアクションに伴走するなど、多岐にわたる実績を持ちます。

同社の最大の特徴は、AIを目的化せず、企画より先にプロトタイピングを重ねる開発手法と、「人とAIが自然に交わる接点」を時代感に合わせて設計する独自の哲学にあります。本記事では、開発の根底にある課題意識や他社とのアプローチの違い、プロジェクトの進め方や運用の実態について、同社のCTO兼AI専門チーム「ai-ai」のリーダーである荻野さんに伺いました。

「効率化・代替」だけではない、AIの”余白”を探求するチームの立ち上げ

Q. まず、株式会社コネルの事業内容と荻野さんの役割について教えてください。

 荻野さん: 株式会社コネルは、R&Dとアート、ブランディングを主軸に、研究開発を社会に届けるまでを手がけるチームです。クリエイター目線でさまざまな企業とPoCやプロトタイピングを行い、社会に問いを投げかけるプロジェクトを生み出します。私の役割は技術統括で、AIを含むテクノロジーを起点に新しいプロジェクトを企画すること、そして、組織の中でテクノロジーがどう使われ、どうあるべきかを設計すること。この両方を見ています。

Q. AI専門チーム「ai-ai」は、どのような背景や課題意識から立ち上がったのでしょうか?

 荻野さん: 私たちが掲げているのは「Good Singularity(グッド・シンギュラリティ)」という考え方です。AIが人類を超えて自律進化していくタイミングにおいて、人間とAIの向き合い方が今後の5年、10年、20年の社会を大きく変える分岐点になると考えています。
現在、AIは主に効率化や人間の代替として使われています。それも正しい使い方ですが、かつてポケベルが単なる呼び出しから暗号メッセージの道具に変わり、電話が事故連絡からおしゃべりの道具に変わったように、AIの捉え方にもまだ大きな「余白」があるはずです。その余白を俯瞰して考えてみようというのが、私たちの活動の発端です。

Q. その「余白」を探るアプローチとして、これまでどのようなプロジェクトを手掛けてきたのでしょうか?

 荻野さん: さまざまな領域でR&Dやブランディングのプロジェクトを行ってきました。例えば、気候変動で失われつつある季節感をデータからビジュアライズし、フード3Dプリンターで印刷して食べる和菓子のプロジェクト「サイバー和菓子」があります。

また、NTTさんと一緒に生体データから睡眠導入しやすい光と音を出す“睡眠を持ち運べる服”「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」を作ったり、パナソニックさんと未来のリビングデバイスを考えたりと(NRUX Prototypes)、効率化だけではないAIやテクノロジーの使い方を模索してきました。

企画より先にプロトタイプを作る。AIを目的化しないプロジェクトの進め方

Q. AIを使ったプロジェクトを進めるにあたって、意識されていることや工夫されているポイントは何でしょうか?

 荻野さん: 一番のポイントは「AIを目的化しない」ことです。AIプロジェクトに関わると、どうしてもAIそのものが話題の中心になりがちですが、本来は達成したい目的や表現があり、そのためのツールとしてAIが存在します。

 また、プロトタイピングをとにかく繰り返すことも非常に重要視しています。AIを過大評価も過小評価もせず、「現時点でアクセスできる技術でどこまでできるのか」を検証するため、企画よりも先にプロトタイプを立ち上げます。一般的な開発ではUI/UXを作ってからソフトウェアを作りますが、私たちは検証とプロトタイプを行ってから企画とUI/UXを作るという手法をとっています。

Q. 人とAIが自然に交わる接点やUI/UXを作る上で、意識されていることはありますか?

 荻野さん: 「時代感をちゃんと理解する」ことを非常に意識しています。人工知能の進化と並行して、私たち人類の認知や感性、リテラシーも急速に変化していて、ChatGPTが登場する前と今とでは、3年あまりでAIに対する社会の感覚が大きく変わりました。
例えば、5年ほど前はチャットインターフェース自体に抵抗感を示す方が多くいましたが、今はチャット画面を見て嫌だと思う人はほとんどいません。プロジェクトが始まると半年で世の中の状況が変わってしまうこともあるため、常に今の時代感において「AIとコミュニケーションを取る上で一番良い形は何か」を考えながら設計しています。

人間とAIの接点を設計する、独自の哲学とモデル選定のリアル

Q. AI×クリエイティブの領域で、他社と比較した際の独自性はどこにあるのでしょうか?

 荻野さん: クリエイティブにおけるAI活用というと、動画制作や画像生成、AIバーチャルヒューマンを作る企業が多いと思います。その中で私たちは、LLM(大規模言語モデル)と人間のコミュニケーションや、人と人の間を繋ぐAIの在り方を設計することが得意です。
例えば、「AI中原昌也」というプロジェクトでは、既存の作家の過去の出版物をデータとして読み込ませ、自身のAIクローンと対話して新しい小説を生み出すAIエージェントを設計しました。単に作家をAIでトレースするのではなく、生きている作家の創作環境としてのAIクローンを作ったのです。そこにはユーザーがいて、編集者がいます。LLMが人間の間でどのような価値をもたらすのかを考える、哲学的な問いかけや、人間とAIのインターフェースの設計こそが私たちの特徴だと思います。

AI中原昌也 「声帯で小説を描く!」 Presented by 宇川 直宏 & DOMMUNE

Q. プロジェクトによって活用するAIのモデルなどはどのように使い分けているのでしょうか?

 荻野さん: プロジェクトに合う形でモデルを組み合わせて使い分けています。特定のタスクに向いているモデルや苦手なモデルがあるため、最適なものを選定しています。
最近はエージェントが自動でモデルを選定してくれるケースもありますが、「そもそもどんなツールを持たせ、どんなタスクを保持させ、どのようなナレッジやコンテキストを持たせるか」は作る側が設計しなければなりません。ノーコードで使えるSaaSやAPI、コードベースのフレームワークなど、自分たちがストックしている技術スタックも活用しながら、プロジェクトごとに都度開発して使い分けています。

「未来からの手紙」で連日満員。共創から新規事業まで多岐にわたるAI活用事例

Q. これまで手掛けられた具体的な事例について教えてください。日本郵政との「未来からの手紙」はどのようなプロジェクトだったのでしょうか?

 荻野さん: 「未来からの手紙」は、写真や名前、生年月日、将来の夢などを入力すると、20年後の自分から手紙が届くというコンテンツです。大阪・関西万博の 「Pℓay!郵便局」に設置し、1回500円で体験できるものでしたが、期間中は毎日満員で多くの反響をいただきました。

 発端となったのは、私たちが2022年頃に作った「FUCHAT」という、未来の自分からビデオレターが届くプロジェクトです。これを知った郵便局の方からお声がけいただき、手紙自体の価値が失われつつある中で、未来の自分から手紙が届く体験を通じて手紙の価値を向上させ、未来について考えるプロジェクトとしてスタートしました。

Q. その他のAIに関連する事例についても教えてください。

 荻野さん: 幅広い企業や自治体とご一緒しています。

 例えば、さくらインターネットさんとは「Buddies」というプロダクトを作りました。これはオープンイノベーションの場などで、AIがニックネームをつけてくれたりマッチングをしてくれたりと、イノベーションの種となる出会いを拡張するものです。

千代田区とは、フリーペーパーの編集長をAIが行う「AI蔦屋重三郎」という企画を行いました。これは蔦屋重三郎が手がけた作品やキャラクターをディープラーニングによって学習し、彼の人物像や言葉、思想を再現したテキストベースの対話型AIを開発したものです。

Q. 貴社の自社サービスについても教えていただけますか?

 荻野さん: 新規事業部や知財部の方々に使っていただいているAIサービス「idea Landscape」があります。自社が持っている特許とAIを掛け合わせることで、その特許が持つ別のポテンシャルをアイデアとして大量に生成してくれます。例えば、「人工筋肉」の特許があった場合、それを飲食や生活、ヘルスケアなど別の事業ドメインでどう使えるかというアイデアをたくさん作り出し、その分析から実装まで伴走するサービスです。

正解がない状態から仮説検証を行い、実装後の運用・改修まで伴走

Q. 企業から「AIを使って何かやりたい」と相談を受けた際、どのようなフローでプロジェクトを進めていくのでしょうか?

 荻野さん: 最初はもちろんヒアリングを行いますが、基本的には「なんとなくこんなことができるのかな」という、確証や正解が見えていない状態でご相談いただくケースがほとんどです。そのため、仮説に対して検証を行い、プロトタイプを作りながら進めさせていただくのが一般的なフローになります。同時に、セキュリティや著作権といったコンプライアンスの観点も、必要に応じて専門家と連携しながら、プロジェクトの初期段階から並走させています。

Q. プロジェクトが実装された後のサポートや支援はどのように行っているのでしょうか?

 荻野さん: 長期にわたるプロジェクトの場合は、システムの監視や不具合が起きていないかのチェックを当然行います。その上で、プロジェクトパートナーとして日々の改修にも伴走し、継続的にサポートしています。

ソフトウェアの外側にある「フィジカルな領域」でのAI活用を目指して

Q. 最後に、株式会社コネルとしての今後の展望や実現したいことを教えてください。

 荻野さん: 組織の中でAIツールなどを使うのは日常的になっていますが、私たちはもっと世の中でAIの可能性を追求したいと考えています。
現在はソフトウェアやインターネット上でのAI進化が著しいですが、少し離れた工芸や農業、あるいはフィジカルAIといった領域には、まだAIが入っていない「余白」がたくさんあります。そういった領域での実験が世の中でどんどん進み、社会全体の活動量が増えていくような状態を作っていけたら嬉しいです。

Q. 読者に向けて、メッセージをお願いします。

荻野さん: 現在、弊社のメディア「知財図鑑」(https://chizaizukan.com/)のリニューアルに向けて準備中です。「発明のWikipedia」をテーマに、お堅いものではなく、小学生の自由研究や学生の論文なども広義の知財と捉え、誰もが書き込める民主的な場所にしていきたいと考えています。AIを絡めることで掲載件数を10〜20倍にしていく予定です。

「知財図鑑」は5年ほどかけて面白い技術をわかりやすく紹介してきたメディアです。今回のリニューアルを通じて、より多くの方に技術の面白さを届けていきたいと思っています。ぜひご期待ください。

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