2〜3ヶ月かかる開発がわずか2日で完了したケースも。全社での生成AI活用とプロジェクト管理

ゲスト

AI時代を見据え、全社AXと新時代の働き方を牽引!
スパイスファクトリー株式会社 TOPS Div. 泰さん
2023年頃から全社の生成AI利用を推進し、社内規約の整備や業務のAI駆動に向けた啓蒙活動を進めてきた。現在はTOPSと呼ばれる全社の技術戦略・基盤・組織・文化を横断的に支え、「技術で事業と人の可能性を最大化する」ことをミッションとしたチームに所属。プロジェクトを通じた実践的レクチャーや勉強会を主催。数多くの試行錯誤を経て、開発生産性向上や組織全体のAI駆動マインドの浸透に取り組んでいる。

この事例のポイント

  • 生産性を20倍以上に向上させた手法: 従来手法では2〜3ヶ月かかるWebアプリ開発における全工程を、各種AIツールをフル活用することでわずか2日に短縮した。
  • AI駆動プロジェクトマネジメントの実践: Claude ProjectsやClaude Codeに議事録や資料を読み込ませ、プロジェクト計画からマネジメントまでを実践。そのデモを全社に公開することで、翌日には社員が自発的に活用を始める転機を作った。
  • 自律的なAI運用を支えるルールづくり: 「ルールが面倒で使わない」事態を防ぐため、最低限のセキュリティを担保したトライアル制度を新設。全ツールを積極的に試せる環境を情シス部門と共に整備した。

生産性がおよそ20倍向上した事例も。開発工数の45%削減と全社利用率100%

Q. 全社的なAI活用を推進するための体制と、達成した定量的な成果について教えてください。

A. 全社員のAI利用率100%を実現し、大規模開発工数を45%削減。

泰さん: 私は元々CTOとして全社的なAI活用を推進していましたが、現在はTOPS DivisionでPrincipal Engineerとして活動しており、現在のCTOと情シスを含めた4名のメンバーで、全社のAI駆動を牽引しています。

現在では全社員が生成AIやAIツールを活用しており、社内の生成AI利用率は100%に達しています。定量的な成果として最も分かりやすいのは、システム開発における工数の大幅な削減です。AI駆動開発により開発スピードは劇的に向上し、従来と比べて20倍以上の生産性向上を実現するケースも。具体的な事例として従来250人月を見込んでいた工数をAI駆動前提で135人月に削減(45%削減)で提示をするなど、ものづくりそのものに大きな変革をもたらしています。また、メンバーによってはプルリクエストのマージ数が以前の倍以上に増えるなど、非常に高いパフォーマンスを出しています。

また、最近では私が作成したAI駆動組織診断のWebアプリにおけるAI駆動開発の事例があります。AIをフル活用し、デザインから開発、インフラ構築、自動デプロイ、さらにはコンテンツ制作までを一貫して行いました。従来の手法であれば設計・開発だけでも1ヶ月以上、トータルで2〜3ヶ月かかってもおかしくない規模のプロジェクトでしたが、わずか2日で全て完了させることができました。

Q. どのようなツールを使い、具体的にどのような領域でそうした成果を生み出しているのでしょうか。

A. Claudeをメインに活用し、PM、開発、経営層まで活用を浸透

泰さん: やはり一番レバレッジが効いているのは開発領域です。しかし開発に限らず、デザインやプロジェクトマネジメントをAI駆動にすることで、時間を大きく削減し、人間だけができる思考や業務に時間を割くことで、より高付加価値の成果物を出せるようになってきています。

使用しているツールは、基本的にはClaudeをメインに据えています。これまで非エンジニアはClaudeやClaude Projects、エンジニアはそれに加えてClaude Codeを扱っていましたが、最近では非エンジニアもClaude Codeを積極的に使い始めています。

【社内活用の効果的な事例】

  • AI駆動のプロジェクトマネジメント(PM): 議事録やプロジェクト関連資料をClaude ProjectsまたはClaude Codeに取り込み、AIがプロジェクトのプランニング、見積り、MTGアジェンダや資料の作成などを包括的にサポート。会議はtl;dvによりトランスクリプションを取得しており、Claude Codeへの取り込みの自動化も進めています。
  • HTMLによるダッシュボード/レポーティングページの作成: Claude Codeを活用し、HTMLによるダッシュボードやレポーティングページを作成。必要なデータをMCP経由で取得・整形し、事業部のKPIや営業状況を即座にHTMLダッシュボードとして反映しています。また、自身のPRJ別稼働状況・稼働予測に関するHTMLダッシュボードを作成し、ClaudeのSkillsを用いて都度データ収集、アップデートしているメンバーもいます。HTMLによる出力を活用することで、従来のドキュメントよりも表現が豊かになり、自身や部門メンバーにとって扱いやすく動的なフォーマットを実現することが可能になります。
  • 経営層によるWebコンテンツの即時作成・公開: 経営層が自身でClaude Codeを用いてLPやサービスページを即時に作成・公開することで、マーケティングや新規事業の外部展開を高速化しています。

その他のツールとしてGeminiを活用したり、最近は画像生成や出力品質が大きく向上してきたため、ChatGPTとCodexを利用するメンバーも増えてきました。また、FigmaやNotionなど既存のツールに搭載されたAI機能を活用するなど、各種用途に合わせて最適なAIツールを組み合わせています。

AIの進化による危機感:トライアル制度でナレッジを蓄積

Q. 2023年頃からAI活用を始められたとのことですが、具体的な着手の背景や動機を教えてください。

A. AIの急速な進化とビジネスモデルの変化への危機感から、全社的なAI活用を開始

泰さん: 2023年頃から様々なAIツールを使い始めましたが、特定の細かい課題を解決したいというよりも、AIの劇的な進化に対する業界的な危機感が大きな動機でした。他社がAIで開発スピードを上げている中で、我々も当たり前のように適応していかなければならないと感じていました。

最初の頃は、コーディングやレポートの自動生成、RAGの構築など、細切れなユースケースからスタートしました。しかし、ChatGPTやClaudeを中心としてAIの機能や性能が急激に進化していく中で、我々のビジネスモデル自体が根本から変わってしまうという強い危機感を抱き、AI駆動への変革をより押し進めるきっかけとなりました。

現在は、ビジネスサイドの人間でもプロンプト次第でLPやWebサイト、データダッシュボードを作れてしまう時代です。コードを書くという手段そのもののコモディティ化が進む中で、人間が価値を発揮すべき領域は「問いを立てること」「意味を問うこと」「何を作り、何を作らないかを判断すること」に集約されていきます。

Q. 取り組みの初期において、推進の中でぶつかった具体的な課題や壁はありましたか。

A. AIの激しい変化に対し、最新のAIツールを試せるトライアル制度を作りナレッジ蓄積を優先

泰さん: 最初期は、いわゆる「AI戦国時代」でした。数日単位で各ツールの機能や性能が進化し、昨日までできなかったことができるようになるようなスピード感でした。この変化のスピードの中において、どのツールを標準化すべきか全く分からない状況だったのが最初の大きな壁です。

そこで、現在のCTOの方針のもと「最新のAIツールを積極的に使っていこう」とブレーキをかけない決断をしました。社内ルールや申請プロセスが煩雑になることで最新のAI技術のキャッチアップが遅れ、結果的に企業の競争力を失うことの方がリスクだと考えていました。

セキュリティやオプトアウトのルールは情シスと共に整備しつつ、まずはクライアント情報を入力しない前提で、個人レベルで迅速にAIツールや機能を試せるトライアル制度を新設しました。検証を経て安全性や有用性が確認できたツールから、業務利用へ正式に展開していく流れです。トライアル制度の申請時には、セキュリティチェックや規約調査が即時AIで行われ、申請から利用までのリードタイムを短縮しています。これにより、安全性を担保しながら社内メンバーが素早いサイクルで新サービスの検証を行うことができ、様々なツールの良し悪しやナレッジが社内に蓄積される環境を構築できました。

AIによるプロジェクト推進とClaude Projectsでの属人性排除

Q. プロジェクト機能やツールキットを使って、具体的にどのように業務を進められているのでしょうか。

A. Claude Projectsに全議事録を読み込ませ、状況把握から成果物作成まで自動化

泰さん: プロジェクトマネジメントにおいては、プロジェクト単位でClaude Projectsの作成や、コンテキスト管理用のgitとClaudeCodeの整備を行っています。そこに顧客からの要件や仕様、事前資料、さらには顧客業界のディープリサーチ結果などを全て読み込ませ、会議の議事録も継続的に蓄積しています。

例えば、コンサルティングや人材育成の案件では、最初の3ヶ月間の目標を議事録ベースでAIに立案させ、それを月別、さらには週別のタスク一覧へとドリルダウンしてスケジュールを組ませました。会議後のタスク整理や資料作成もAI起点に行い、顧客へのヒアリングが必要な際もAIにヒアリングシートのベースを作成させ、それを拡充して使うといった一連のフローを確立しています。AIへ丸投げするのではなく、AIを中心に置いた業務設計を行いながら、人間が価値を出すべき役割に集中しています。

また、副次的な効果として途中からプロジェクトに参加したメンバーや引き継ぎの際でも、AIに話しかけるだけで現在の状況や次のToDoが瞬時に把握でき、業務の属人性が劇的に下がることにも繋がっています。

Q. 既存ツールを複数活用されていますが、自社専用のシステムを内製するのではなく、既存ツールを使っている理由は何ですか。

A. Claudeや各種プラットフォームをMCPで繋ぎ、独自開発なしで高度な検索や運用を実現

泰さん: 既存のプラットフォームをベースに、MCP(Model Context Protocol)で各ツールを繋ぐことで十分に高度な業務が回せているからです。Claudeを起点にSlackやGitHub、 Notionといった既存プラットフォームをMCPで接続し、データを行き来させる前提のワークフローを構築しています。

独自のRAGシステムを構築する案もありましたが、プロジェクト単位であれば、議事録や案件資料などのデータをGitで管理し、Agentic Searchをかけた方が早く、十分に精度が担保できるケースも多いのです。

また、現時点でClaudeをメインに据えているのは、機能リリースの速度や開発者・ユーザー体験が非常に優れているからです。最近ではClaude Designのデザイン機能を使ってWebアプリのプロトタイプやスライドを効率的に作成したり、非エンジニアがClaude Codeで部署内の情報を可視化するダッシュボードを作成してデプロイするなど、多様な業務に活用できる点が大きな魅力です。

Q. AIが読み込みやすいように、文字起こしなどのデータはどのように加工・下処理していますか。

A. Claude CodeのSkillsやMCPを用い、文字起こしの誤字修正と話者分離を自動実行

泰さん: MTGの文字起こしデータは、誤字脱字や話者分離の間違いが多いため、そのまま読み込ませる前に必ず一度AIで下処理を行っています。AIを使うことで音声認識で拾いきれなかった発言や誤字も、前後の会話から予測して補完することが可能です。また、会議の内容に対してセクション分けとセクションごとの要約を行い、可読性を高める工夫をしています。

以前は専用のClaude Projectsを用意して整形していましたが、最近ではClaude CodeのSkillsやtl;dvのMCPを活用しています。Claude Codeからtl;dvへ直接議事録データを取りに行き、自動で議事録の取得・整形処理を実行させた上で、NotionやGitに格納するフローを回しています。

Q. 業務の中心でAIを活用するにあたり、ハルシネーションに対してどのような品質担保の仕組みを設けていますか。

A. 矛盾があれば確認を求めるプロンプトを設定し、人間のコードレビューなどを必須化

泰さん: 体系的なガードレールというよりは、プロンプトの工夫で品質を担保しています。プロジェクトマネジメントでのAI活用においては、全ての背景や議事録を読み込ませた上で、「ユーザーの発言が過去の文脈と矛盾している場合は、まず確認を取る」というプロンプトを入れています。

これにより、AIが憶測で話を進めるのを防ぎ、「前のミーティングではこう言っていましたが、方向性が変わったのですか?」とAI側から指摘してくれるようになりました。

また、根本的な対策として「AIが出した生成物を絶対に鵜呑みにしない」という社内教育を徹底しています。AIが生成した成果物に対する人間のレビューなど、Human-in-the-Loopのプロセスは欠かさず実施しています。

非エンジニアの活用停滞をPM業務のデモと出力フォーマット指導で突破

Q. エンジニア以外のメンバーへの展開において、推進の難しさやぶつかった壁はありましたか。

A. 成果物の出し方が分からず、個人活用で止まる「AI駆動のイメージ不足」の壁に直面

泰さん: 当初はChatGPTのアカウントを一気に全社配布し、「とにかく触ってみてほしい」という状態からスタートしました。エンジニアであればAIとプログラミングの親和性の高さや、Cursorなどの開発ツールとの組み合わせもあり、自然と業務がAI中心になっていったのですが、非エンジニアへの浸透には壁がありました。

他のツールはエンジニア向けツールに比べてガイドが少なく、使う人のリテラシーに大きく依存してしまいます。そのため、ちょっとした調査や要約といった個人の作業効率化で止まってしまい、「業務の中心にAIを持ってくる」というAI駆動のマインドやイメージがなかなか定着しませんでした。

Q. その「AI駆動のイメージが定着しない」というマインドの壁を、どのように乗り越えたのでしょうか。

A. PM業務をすべてClaudeで行うデモを実施し、翌日から全社での活用が爆発的に増加

泰さん: 各メンバーが自分で活用できているつもりでも、客観的に見るともっと活用の幅が広げられる状態でした。そこで私は、実際の案件において、営業段階から一貫してClaude Projectsでプロジェクトマネジメントを行うという実践をしました。

営業資料の作成から技術スタックの選定、見積り作成、スケジュールやタスク管理まですべてAIで行い、その一連の事例を社内の勉強会でデモとして実演したのです。

すると、そのデモを見たメンバーの多くが「AIを中心に業務を回すとはこういうことか」と深く納得してくれました。翌日には、複数のメンバーが自身のプロジェクトでClaude Projectsを利用し始めるという大きな転機になりました。

Q. 活用が広がり始めた後、さらに成果物の質を上げ、定着させるために工夫されたことはありますか。

A. 受け手が理解しやすいよう、TSVや画像など適切なフォーマットで出力するコツを指導

泰さん: AIを使ってどのようなアウトプットにするかという「コツ」を伝えるレクチャーを精力的に行いました。テキストチャットで普通に指示をすると、当然ながら単なるテキストの羅列が返ってきてしまい、それをそのまま利用してしまうケースがありました。

そこで、受け取り手の状況やリテラシーに合わせて出力フォーマットを変える重要性を指導しました。例えば「TSV形式で出力して」と指示してスプレッドシートに貼り付ければ、情報が整理された見やすい表になりますし、視覚的な方が良ければ画像で出力させたり、スライド形式にしたりできます。相手が理解しやすい形に整形するという意識を持たせたことで、メンバーの成果物の質の向上につながりました。

Q. ネガティブな声への対処よりも、マインドを変えることに注力した理由と、継続の仕組みを教えてください。

A. 静かに停滞を生んでいる危機感から、AI時代の働き方の啓蒙と週1回の相談会を継続

泰さん: 実は、推進の中で「AIが使いづらい」といったネガティブな声はほとんど上がりませんでした。メンバーは皆前向きにAIを利用し、多くの取り組みに挑戦しているものの、AIを業務の中心に置くというレベルにまでは変革しきれていない状況がありました。

だからこそ、思い切ってAIにマネジメントされている状態、つまり「AIにプロジェクトマネジメントをやらせる」といった新時代の働き方を体現し、マインドを変えることに注力しました。

さらに、一過性で終わらせない仕組みとして、感度の高いメンバーを集めた社内勉強会「Spice AI Hub」を毎週30分、継続的に開催しています。AI活用における課題や悩み、新しいツール・機能の紹介など、AIに関するトピックを気軽に話し・聞き合える場として設計しており、「知ることで終わらず、どう実務に落とし込むか」まで率直に議論することを大切にしています。

既存業務の抽象化と再定義によるAIエージェントの自律稼働

Q. 今後のAI活用において、さらに強化していきたい領域や課題だと感じているポイントを教えてください。

泰さん: これからはAIエージェントの数がどんどん増え、人間がやっているワークフローがAIに置き換わっていくフェーズに入ります。AIによって自動的に業務が回っている状態や、AIエージェント同士が自律的に連携してインプットとアウトプットを出し合いながら進んでいく状態を目指しています。

しかし、それを実現する上で最も大きな壁になるのが「既存業務の紐解き」です。大小様々な業務を抽象化し、そもそも今までのやり方が間違っていた可能性も含めて、業務そのものを根本から整理し直す必要があります。

その上で、AIと人間のそれぞれの役割を再定義し、どのようなデータが必要なのかを明確にしなければなりません。そうした要件をもとにAIエージェントを設計し、安定的に業務を回して成果に繋げていく。この部分を今後の課題として重点的に強化していきたいと考えてます。

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