ゲスト
AIを駆使し、スタートアップの高速開発を牽引するエンジニア
株式会社Storeeel エンジニア 小坂さん、後藤さん
株式会社Storeeel立ち上げ前より、それぞれが個人的にAIを業務で活用。2023年秋のコーディング特化型AI登場を機に、開発・デザイン業務におけるAI活用を本格化。現在、SNSライクなUXを提供するウェブプラットフォームの開発全般に従事。AI導入により、1週間かかっていた開発期間を1〜2日へと大幅に短縮する成果を創出。
▼小坂さん

▼後藤さん

この事例のポイント
- 1週間のデザイン議論を3時間に短縮する方法: デザイン生成ツールを活用し、デザイナーとの確認作業を効率化。その後コーディングAIでコードを生成し、一気にリリースまで完了させる
- AI開発における4ステップの実行フロー: 知識のドキュメント化、実態把握、実行、評価の順で進行。情報共有ツールにまとめた実装の背景をAIに読み込ませ、文脈に沿った出力を得る
- 人間とAIのレビュー領域の切り分け方: 動作の最低ライン保証や顧客への提示など、リスクが高い部分は人間が確認。それ以外はAIのメモリをリフレッシュさせ、複数モデルで多角的にチェックする
- AIの意図しない出力を防ぐプロンプトの型化: 指示の抜け漏れによるブレを回避するため、要望と背景をカテゴライズしたテンプレートを作成。また、仕様書のドラフト自体をAIに作らせることで精度を向上させた
開発期間を1週間から1日に短縮。デザイン議論も1週間から3時間へ
Q. 開発業務に生成AIを導入したことで、具体的にどのような変化や成果が得られましたか。
A. 1週間の開発期間を1〜2日に短縮し、デザイナーとの壁打ち時間も大幅に削減している。
小坂さん: まず体感ベースにはなりますが、開発速度が飛躍的に向上しました。今までリリースまでに1週間ほどかかっていたような開発が、1〜2日程度で完了できるようになっています。
また、以前は月に2、3回ほどデザイナーにまとまった範囲のデザインを依頼し、上がってきたものをもとに実装に取り掛かるというフローを踏んでいました。このデザイナーとの壁打ちにも1週間ほどかかっていたのですが、現在はデザイン生成AIツール「lovable」を利用することで、わずか3時間ほどで議論しながらデザインを完成させられるようになり、大幅な時間短縮につながっています。
Q. 実際の開発業務やビジネスサイドにおいて、複数のAIツールをどのように使い分けて成果を出しているのでしょうか。
A. デザインツールとコーディングAIを連携させて開発を進め、ビジネスサイドでもペルソナ分析などに生成AIを活用している。
小坂さん: デザイン関連の業務に関しては、デザイン生成AIツールを活用しています。このツールを使って社内メンバーで確認を取りながらデザインを確定させます。デザイン確定後は主にClaude CodeやCodexなどのコーディングAIを利用し、AIに実際にコードを生成させ、そのままリリースまで持っていくという流れがメインの開発フローになっています。
後藤さん: ビジネスサイドでもAIは活躍しています。今後どのような機能が使いやすいかといったアイデア出しや、他社ツールとの連携性に関する調査などに利用しています。開発面に限らず、営業メンバーが「どういうペルソナに対して、どのようなアプローチをしていくべきか」を考える際にも、ChatGPTやGeminiなど、複数の主要な生成AIを使ってリサーチを行っています。全社的に様々な業務でツールを使い分けている状態ですね。
人を増やさずAIで開発を加速。コーディングAI登場を機に本格活用を開始
Q. 社内ではどのような体制でAI活用を推進しているのでしょうか。また、AIを開発の加速手段に選んだ理由を教えてください。
A. 専任部門はなくメンバー全員が日常的に利用を開始し、スタートアップの資金力を考慮して低コストで成果を出せるAIを選択した。
後藤さん: 特に「AI推進」といった専門の部門やトップダウンの指示があったわけではありません。現在のメンバーは4人なのですが、基本的に全員が株式会社Storeeelの立ち上げ前から、それぞれ個人的にAIを使っている状態でした。そのため、「こういうところにAIが使えそうだ」という話を日常的にしており、去年(2025年)からAIの性能が向上してきたこともあり、自然と業務に組み込まれていきました。
小坂さん: 開発手段としてAIを選んだ一番の理由は、コストパフォーマンスの高さです。スタートアップということもあり、人員を増やすにはそれなりに資金がかかります。少ない投資でこれだけ大きな成果を出せるという意味で、AIは我々にとって最適な選択肢でした。AIなら休みなく稼働し続けてくれるという強みもあります。
Q. 本格的にAIを開発に導入しようと決断した、具体的なきっかけは何だったのでしょうか。
A. 横断的にファイルを参照して高精度なコードを出力できる、新たなコーディングAIの登場が本格活用の転機となった。
小坂さん: 導入を決めた背景として、前職などでも試験的にコーディング支援ツールを使っていた経験はありましたが、当時はあくまでコードのアシスト機能といったレベルでした。Storeeelを立ち上げた当初も、自力でコードを書いてリリースさせていた時期があります。
しかし、2023年の秋ごろに高度なコーディングAIが登場したことで状況が一変しました。横断的にファイルを見てコードを書けるようになり、非常に精度が高かったのです。「これは使える」と確信し、そこから本格的な利用が始まりました。当時は他の仕事と並行しながら合間で開発を行っていたため、スタートアップに求められるスピード感の課題を、AIの導入によって見事に解決できたと思っています。
4ステップの開発フローを構築:ドキュメント化から複数モデルの評価
Q. 開発業務において、具体的にどのような手順でAIにタスクを処理させているのでしょうか。
A. 知識のドキュメント化、実態の把握、改善の実行、AI自身によるレビューという4つのステップで進行している。
後藤さん: 開発業務においては、大きく4つのステップでAIを活用しています。まず1つ目が「知識のドキュメント化」です。社内に散らばっているドキュメント化されていないナレッジを、AIを使って言語化します。次に2つ目が「実態の把握」です。AIに前提を共有し、現状を正確に把握させます。
3つ目が実際の「改善・実行」のステップです。ここでのポイントは、一度で答えを出させるのではなく、事例に合わせた適切なアプローチをAIに導き出させることです。そして最後の4つ目が「評価」です。AI自身に出力したものをレビューさせています。個々の個別タスクに対して、この一連のフローを回しています。
Q. 最初のステップである「ドキュメント化」の工夫と、最終ステップである「AI自身による評価」を機能させるためのポイントは何ですか。
A. 開発の背景を情報共有ツールに記録してAIに学習させ、評価時はメモリをリフレッシュして複数モデルで多角的に確認させている。
後藤さん: ドキュメント化においては、単に「どういう機能があるか」をまとめるだけでなく、「どういう実装を、どのような理由で採用したのか」といった背景をしっかりと残すようにしています。情報がブレないように「ここまでの範囲で調査してほしい」というスコープの定義も行い、社内の人間が見てもわかりやすいナレッジとなるようクラウドの情報共有ツールにまとめています。
AIにレビューをさせる際は、プロンプトを投げて一通り作業をさせた後、あえて一度メモリをリフレッシュして忘れさせます。フラットな目線で改めてレビューさせることで、本当に正しい実装になっているかを確認できるからです。また、一つの生成AIで聞いた内容を別のモデルのAIで聞いてみるなど、前提条件を与えた上で別視点からの知識でレビューさせるという多角的なチェックが非常に重要になってきます。
人間による最終確認の境界線と、コスト面を重視したツール選定
Q. AIによる自動レビューと、人間が行う最終確認の境界線はどのように引いているのでしょうか。
A. システムが大きく壊れるリスクがある部分や、顧客へ提示する情報の出典確認など、リスクが高い領域のみ人間が確認している。
後藤さん: 全てをAIのレビューに任せているわけではありません。「人間が見なくてもある程度リスクが許容できる範囲」をAIに任せています。例えばコードの実装であれば、多少下手なコードでも動作自体に問題がないという最低ラインを人間が保証できれば、あとはAIのチェックで十分です。逆に、大きく壊れてしまうリスクがある機能などは、人間が必ずレビューに入ります。
また、調査段階のタスクではハルシネーションのリスクを抑えるため、プロンプトで引用や出典を出させるように指示しています。特にお客様に何かを紹介する場面などでは、その出典内容を人間が確認し、「本当にここに書かれているから実現可能だ」という判断を行っています。
Q. 現在のメインツールを選定した理由と、社内のセキュリティ運用ルールについて教えてください。
A. コストパフォーマンスを最優先に評価してツールを選定し、致命的な顧客情報を避けた上で細かな制限を設けずに運用している。
小坂さん: 現在は複数のツールを試していますが、メインのコーディングAIを選んだ最大の理由は、トークンの使用制限が緩く、金額的なメリットが大きいからです。過去に別のAIをメインで使っていた時期もあったのですが、すぐにトークンが消費されて制限がかかる状態が続いてしまいました。それに比べて現在のツールは安価なプランでも長く使え、プロンプト次第で精度の高いものを生成してくれます。有名なツールであればある程度のセキュリティは担保されていると考えているため、一番の評価軸は価格です。
後藤さん: 厳密に「これを入力してはいけない」という社内共通のルールは設けていません。法人プランなどを契約しており、最低限のセキュリティは担保されているという前提に立っています。もちろん、お客様の詳細情報などの致命的なデータは入力しないようにしていますが、それ以外については細かく制限していません。スタートアップとして、慎重になりすぎて活用が進まないよりも、積極的に運用していくことを重視しています。
プロンプトによる出力のズレを、テンプレート化とドラフト作成で突破
Q. AIを本格的に業務へ組み込む中で、どのような壁がありましたか。
A. 指示の抜け漏れにより、想像していたものと微妙に異なる結果が出力されるという課題に直面した。
小坂さん: 現段階でも時々起こるのですが、実際にプロンプトを投げたのに、想像していたものと違うものが返ってくるという壁には何度もぶつかっています。AIは良くも悪くも、指示されたことしか実行してくれません。
例えば、自分の頭の中にある考慮すべきポイントが抜けていたり、具体的な指示を出していなかったりすると、大きくは外れなくても微妙にズレたものが出来上がってしまいます。そこが日常的に使っていく上で、一番難しいと感じる部分ですね。
Q. 「指示の抜け漏れによる出力のズレ」という課題に対して、どのようなアプローチで乗り越えましたか。
A. 要望と背景をカテゴライズしたプロンプトのテンプレートを作成し、さらにAIに仕様書のドラフトを先行作成させるフローへ改善した。
小坂さん: 最近では、プロンプトのテンプレートを1つ作ることで対策しています。「今回の要望はこれ」「その要望を出した背景はこれ」というように、情報をカテゴライズしてプロンプトを投げるようにしました。このテンプレートを活用することで情報の記入漏れを防ぎ、毎回コントロールされた粒度で指示を出せるようになったため、アウトプットの精度がかなり安定しました。
また、業務の進め方自体も変えました。ざっくりと「こういうことをしたい」という要望をAIに投げ、まずはAIに仕様書を作ってもらうようにしています。その上で、人間が仕様書をレビューし、それを元にAIに開発を進めてもらうというフローです。ゼロベースで人間が考えるよりも、AIが幅広い視点から選択肢を示してくれるため、それを人間が判断する形の方が非常にやりやすいのです。
AI前提の思考で業務を再構築:プロダクトへのAI実装と全社展開へ
Q. 日々進化するAIの性能に合わせて、社内での活用方法をどのようにアップデートしているのでしょうか。
A. 意識的な改善サイクルを設けるのではなく、各メンバーが日常業務の中でAIを適用できるケースを常に思考し続けている。
後藤さん: 改善サイクルを定型的に回しているというよりは、メンバーそれぞれが「この作業、AIでできないか」という種を常に探しています。例えば、画像生成においても「最近のモデルなら日本語も正しく出るようになったから、こういう場面で使える」といった具合です。
AIの性能が飛躍的に上がるにつれて、適用できるユースケースは指数関数的に増えていきます。それは単なる性能の差ではなく、人間側が「どういうケースに適用できるか」をどれだけ想像できているかの違いです。だからこそ、常に今のワークフローにAIを適用できないかと思考し続けることが重要だと考えています。
Q. 最後に、今後のAI活用の展望や、AI推進に取り組む企業に向けたメッセージをお願いします。
小坂さん: 現状はコード生成や、各々が業務の準備にAIを使っている段階ですが、今後は自分たちの他の部署でどう効率化できるかを図っていきたいです。さらに、Storeeelのプロダクト自体にAIを使い、ユーザーがより使いやすくなるような新機能の実装にも挑戦していきたいと思っています。
後藤さん: 「AIを使わなければ」と義務感で思っていると、モチベーションが湧かず想像力も膨らみません。「もしAIがあったら、今までの仕事はどう変わるか」という、AIを前提とした考え方を持つことが大切です。AIは一時的なブームではなく、今後完全に消えることはない技術です。ビジネスの様々な場面でAIをどれだけ有効に適用できるかが、今後の企業間の大きな差になっていくはずです。私たちの提供するウェブプラットフォーム「Storeeel」も、企業の皆様にはぜひご検討いただければ幸いです。